まにあわせ blog 卵巣嚢腫捻転ってなーに

忘れないうちの記録です

妊娠6ヶ月で原因不明の腹部痛に見舞われ入院となった妊婦の備忘録⑤

5/14   証拠不十分、釈放?再犯の恐れありー



6:00   

同室に新しい入院患者さんが来たようだ。

自由な大部屋一人ライフも、これまでとなった。


6:10  血液検査、血圧検査。尿検査。


ここでの体重測定は自己申告らしい。体重計の居場所を教えてもらう。入院痩せしてるかな?と思ったら全く減ってなくて驚いた。アプリで見ると、この時期の理想の増加制限ギリギリというところだ...   

6:30 点滴の際、看護師に体重の話をしたら

「痩せてるし大丈夫よ〜」と笑い「私なんて妊婦検診の時、体重詐称して申告してたわよ。」

・・・堂々と前科を明かす看護のプロが朝日で眩しい。

「その時の助産師さんが、もう激怖だったのよ〜」

実は私も妊娠するまで知らなかったが、世の中には妊婦の体重増加でブチ切れる病院があるらしい。昔のスパルタ体育教師並みに。

隣の区には、「馬鹿」「クズ」と妊婦を罵倒することで有名なクリニックがある。信じられない気もするが、何処の口コミサイトを調べても利用者の声が一貫しており、偶然見かけた妊婦の掲示板でも「馬鹿と怒鳴られるので転院した」というレスが立っていたほどだ。良い口コミですら「院長が体重でキツく怒るのは愛情表現」というのだから、感じ方はともかく実態は間違いないのだろう。

注意はともかく罵倒は、私なら耐えられない。

(ちなみに看護師さんの虚偽の体重申告は、結局バレたそうだ)



私が入院している病院、食事は味気ないが

怖くて不快でとんでもない医者は見かけないし、質問はしやすいし、看護師も助産師も人としての礼節を持って患者に接する人ばかりだ。

それは運が良かったのだと思う。


7:00  点滴。鉄剤と抗生剤 


8:00  朝ごはん 安定の減塩少量、禅寺食なので売店で買った昆布をご飯にかけて食べた


9:00  担当医が現れる。1日ぶりだ。

血液検査の結果が良くなってきたとのこと

「えっ!ほんと!やったーーーー!!!」

点滴の管が繋がった手でバンザイしてしまった。


元気になったら帰れる。数字が正常値になったら帰れるって言われてたぞ!

まぁクロが完全なシロになった訳でなく、影は付き纏う訳で.... 検査の炎症値もまだあるらしいし

帰るなと言われた時の心の準備はしておこう


9:20  診察

腹部エコーにて、担当医、Y先生、看護師さん

3者が真剣に超音波画像を見つめる。

「やや小さくなってません?」「うん、膨らんでは...ないよね」「痛みは無くなったし」「捩れもないし」「ただ奇形(嚢腫)っぽい感じあるんだよな」

MRIだと奇形の感じはないですけどね」「この腫れは気になる」「経過観察ですね」「今後、膨れたり捩れたりの可能性もあるから...

ドキドキ。

「とりあえず、また来てもらうとして、今のところは帰って良いんじゃないかね?帰る?」

「帰る帰る!帰ります!!」

おじいさん!白パン!森の木!あたし家に帰るわー!



そこから、ようやく落ち着いてエコーに映る赤子を眺められるようになった。

けっこうこいつはよく動いている。380グラムと標準的なサイズらしい。

嚢腫の様なものが消えたわけでは無いので、翌週また来院することになった。

「くれぐれも安静になさってくださいね。」

貧血らしいので鉄剤を処方される。


「ー今日の退院は、午前と午後どちらが?」「午前で!」

立つ鳥、今すぐ飛びたい。実際のところ午後ならツレ君が迎えに来れるというし(午前中は会議がある)、荷物を考えると待つべきなのだろうが、すぐに帰れるならば一人でいいや。


会議なんて全部スルーして迎えに来いよと言えなくもないがー 彼も固定給ではなく働いた分のみが報酬の保証なきフリーランスである。

私の救急搬送事件に加え契約先企業の都合で今月は特に報酬が大きく減らされる見込みというバッドタイミング。また今後も予定外の出費は嵩みそうなのでー

働ける日は稼いで貰わないと我が家が困る。


4泊5日の入院生活... 

短いようでとても長かった....

名残惜しくはないが、とりあえずベッドや棚を丁寧に片付けよう。


10:20「移動販売でーす」カートを引く音。

ふっ。もうあんな品数が少なくて梅干しの高い店にしがみつく必要はない。外界への橋を渡された私は何処でも買い物ができるのだからね。

と内心強気だったが、請求書の発行は11時になるらしく手持ち無沙汰な事もあり、最後に買うことにした。お茶と水ばかりの日々だったが今日は特別に「濃いめのカルピス」500mlだ。

嗚呼、昨日、2ℓの水なんて予約しなくてよかった。荷物持ちもおらんのに退院する30分前に増えた重い水なんて邪魔そのものだったろう。



さて着替えよう。

ずっとパジャマを着ていたが、ついに「退院用の服」として着替え一式に入れてもらったネコジャラシ柄のワンピースに手を通す。


10:50  看護師から請求書・入院証明書などが渡される。

「これ...1人で運ぶんですか?」

存在感を放つ段ボールを恐ろしげに指される。

長期入院になる事を見込んで、着替えや生活用品などを引越し用の130サイズ段ボールにぎゅうぎゅうに詰めて送ってもらっていた。

「はい、まぁ。何とかなります。タクシー乗り場までは。」退院する事で頭が一杯の私は「イベント用の160段ボールよりは軽い」という基準でしか見ていなかった。

「ちょっと、看護師としてこれを妊婦には持たせられません。」いうが早いかシュッとした面持ちのキビキビした看護師は、鞄持ちならぬ段ボール持ちの人員と台車を素早く手配してくれた。


さようなら、妊婦入院病棟。

お世話になりありがとうございました、ナースセンターに頭を下げると、看護師の何人かが満面の笑みで立ち上がり別れの挨拶をしてくれた。

残念ながらそこにウルスラはいなかったが。


荷物を運んでくれたスタッフの女性が会計窓口まで案内してくれた。

請求書を開けると、今までに支払ったことの無い医療費の金額。それでも3割負担なので、本来はもっと高額なわけだが。

低所得者の救済、高額医療制度の事前申込(国保限度額の認定申請)をしたいとは思っていたのだが、結局は隔離された入院患者が役所に行けるはずもなく、今日ツレ君が午後から行くと言ってはいたが、私がその前に退院になったのだ。

こりゃ3〜4ヶ月後に差額が返ってくるという、一旦全額払って後日申請という手筈しかないと思っていたのだが。

「5月中に『限度額適用書』を持ってきていただければ修正して返金できますよ。」なんと!そんな便利な制度が!!これは病院によるらしい。

何ヶ月も返金を待てない。ホッとして、とりあえず全額をカードで支払った。


ではでは来週また来ます、と言って立ち去ろうとすると、説明の分かりやすい会計の方が急いで後をついてくる。

「大きな荷物ですねー、運びますよ」「あ、大丈夫ですタクシーなんで」「では乗り場まで、運びます。」


うーむ。この病院、妊婦に重い物を運ばせるなという姿勢が徹底されている.... 

タクシーはすぐに捕まり会計の方へお礼を言って別れた(カートも返却してくれるそうだ)


帰りのタクシーの中で、急激に疲れが押し寄せる。これで終わりではない。不安なことが沢山ある。


「今後、卵巣嚢腫の肥大化、破裂、捩れ、お産時の緊急手術を考えると個人院では対応できない可能性がある。事故に備えて内科や外科の整っている大病院が良いだろう」と、医師、助産師にも言われている。

つまり◯◯レディースクリニック、産婦人科

といった産科専門ですら万全と言えずー

まして家族と猫に囲まれた自宅出産なんて言ったら医者は震え上がるだろう。

猫の手を借りても嚢腫は除けない。


コロナ渦の医療現場では、出産にパートナーすら立ち会えない。

恐らく自分にとって一生に一度の命懸けの事なのに、最も側にいて欲しい、またいるべき人と隔離さらる一択であるのは、とても残酷に思えた。

直前に困らない様、小さな個人院にも予約はしていたのだが。キャンセル可能期間までは諦めきれず、助産院や自宅出産なども総合的に調べ検討していてー そんな矢先の事件だった。


今回、死を予期する程の痛みに襲われた。そして今後それが再来し、最悪の場合は安全な出産をも妨げる可能性があると言うのだから、もう自分は「ハイリスク寄りの妊婦」と腹を据えた方が良いのだろう。

「寄り」と言ったのは、真のハイリスク出産者から「お前のリスクなんか全然だぜ」といった非難を避けたいからなのだが、今改めてハイリスク出産について調べたら卵巣嚢腫は入るみたいである....  


11:20  気がつけばマンションに着いていた。

タクシー運転手に段ボールをエントランス入口の階段までおろしてもらう。

三階まで階段で運びたくないのでツレ君にLINEするも、申告通り会議中の様だ。何時に終わるかは不明。

面倒だが段ボールの中身を2つに分け、手荷物とは分けて3回運ぶ。本当はこんなもん全然いっぺんに運べる量だけどなー。

「妊婦に持たせられない」という看護師さんの言葉が刺さっている。

では荷物の重量を下げるために階段3往復はしていいのか?

ローリスク妊婦の時ならまだしも、今の自分の加減はさっぱり分からない。


猫2匹と人間一人に出迎えられ、5日ぶりに玄関をくぐる。

はー。おうち。巣。

入院荷物をとっとと片付けたいが、意を決してやめる。歯を食いしばって、やらない。

私は私の為に寝る。怠ける覚悟を持て。


救急搬送される前日、実は珍しくデスクワークを1日した。食事や休憩は勿論挟んで、10時間ぐらい。妊娠以来、初めてマトモにまとまった時間を仕事に費やした。

通勤している妊婦さんに比べれば決してハードワークではないし、卵巣と直接の関係は無いだろう。

ただ、何かのキッカケで万が一、普通に働いた事が激痛事件を起こす最後の一押しになっていたらと想像してしまうとー

どうにもこうにも、臆病になる。


小さい方の猫は、べったりとくっついて離れない。飼い主の帰還が嬉しくて仕方がない、素直な犬の様だ。本当に分かりやすい。

大きな方の猫は、拍子抜けするほど落ち着いている。元々無口ではあるし、返事もしないことの方が多いけれども。おまえ、何か、もうちょっとあるだろうよ。

「ただいま。◯◯」大きな猫に名指しで声をかけると、くるりと振り返り「あぁーーーん」と泣きそうな甲高い声を上げた。

いつものアルトボイスからは想像もできない様な、か細い声。

「お帰り」か「待っていたよ」か、特定の意味合いは持たない叫びなのか。いずれにしても、彼は彼なりに心を削っていて今を歓迎しているのだろう。


人語を発しない者たちと多くを語る事はない。

でも奴らはきっとこちらが図れないほど沢山の想いを持っている。

お腹を撫でると、ドカッと蹴り上げる反応が返ってくる。うん、元気だね。


満足度120点の出産プランは望めないだろうけどもー

きみも私も、無事に生きれる道を探そう。






最後になりましたが

K病院の医師の皆様、看護師さん、助産師さん、

現場スタッフの皆様

NレディースクリニックのS先生、

迅速に駆けつけ安全に運んで下さった救急退院の3名様

医療崩壊目前のこの国の過酷な医療現場で、突発的な患者にも嫌な顔一つせず全力を尽くしてくださった事へ心より感謝申し上げます。