妊娠6ヶ月で原因不明の腹部痛に見舞われ入院となった妊婦の備忘録⑤
5/14 証拠不十分、釈放?再犯の恐れありー
6:00
同室に新しい入院患者さんが来たようだ。
自由な大部屋一人ライフも、これまでとなった。
6:10 血液検査、血圧検査。尿検査。
ここでの体重測定は自己申告らしい。体重計の居場所を教えてもらう。入院痩せしてるかな?と思ったら全く減ってなくて驚いた。アプリで見ると、この時期の理想の増加制限ギリギリというところだ...
6:30 点滴の際、看護師に体重の話をしたら
「痩せてるし大丈夫よ〜」と笑い「私なんて妊婦検診の時、体重詐称して申告してたわよ。」
・・・堂々と前科を明かす看護のプロが朝日で眩しい。
「その時の助産師さんが、もう激怖だったのよ〜」
実は私も妊娠するまで知らなかったが、世の中には妊婦の体重増加でブチ切れる病院があるらしい。昔のスパルタ体育教師並みに。
隣の区には、「馬鹿」「クズ」と妊婦を罵倒することで有名なクリニックがある。信じられない気もするが、何処の口コミサイトを調べても利用者の声が一貫しており、偶然見かけた妊婦の掲示板でも「馬鹿と怒鳴られるので転院した」というレスが立っていたほどだ。良い口コミですら「院長が体重でキツく怒るのは愛情表現」というのだから、感じ方はともかく実態は間違いないのだろう。
注意はともかく罵倒は、私なら耐えられない。
(ちなみに看護師さんの虚偽の体重申告は、結局バレたそうだ)
私が入院している病院、食事は味気ないが
怖くて不快でとんでもない医者は見かけないし、質問はしやすいし、看護師も助産師も人としての礼節を持って患者に接する人ばかりだ。
それは運が良かったのだと思う。
7:00 点滴。鉄剤と抗生剤
8:00 朝ごはん 安定の減塩少量、禅寺食なので売店で買った昆布をご飯にかけて食べた
9:00 担当医が現れる。1日ぶりだ。
血液検査の結果が良くなってきたとのこと
「えっ!ほんと!やったーーーー!!!」
点滴の管が繋がった手でバンザイしてしまった。
元気になったら帰れる。数字が正常値になったら帰れるって言われてたぞ!
まぁクロが完全なシロになった訳でなく、影は付き纏う訳で.... 検査の炎症値もまだあるらしいし
帰るなと言われた時の心の準備はしておこう
9:20 診察
腹部エコーにて、担当医、Y先生、看護師さん
3者が真剣に超音波画像を見つめる。
「やや小さくなってません?」「うん、膨らんでは...ないよね」「痛みは無くなったし」「捩れもないし」「ただ奇形(嚢腫)っぽい感じあるんだよな」
「MRIだと奇形の感じはないですけどね」「この腫れは気になる」「経過観察ですね」「今後、膨れたり捩れたりの可能性もあるから...」
ドキドキ。
「とりあえず、また来てもらうとして、今のところは帰って良いんじゃないかね?帰る?」
「帰る帰る!帰ります!!」
おじいさん!白パン!森の木!あたし家に帰るわー!
そこから、ようやく落ち着いてエコーに映る赤子を眺められるようになった。
けっこうこいつはよく動いている。380グラムと標準的なサイズらしい。
嚢腫の様なものが消えたわけでは無いので、翌週また来院することになった。
「くれぐれも安静になさってくださいね。」
貧血らしいので鉄剤を処方される。
「ー今日の退院は、午前と午後どちらが?」「午前で!」
立つ鳥、今すぐ飛びたい。実際のところ午後ならツレ君が迎えに来れるというし(午前中は会議がある)、荷物を考えると待つべきなのだろうが、すぐに帰れるならば一人でいいや。
会議なんて全部スルーして迎えに来いよと言えなくもないがー 彼も固定給ではなく働いた分のみが報酬の保証なきフリーランスである。
私の救急搬送事件に加え契約先企業の都合で今月は特に報酬が大きく減らされる見込みというバッドタイミング。また今後も予定外の出費は嵩みそうなのでー
働ける日は稼いで貰わないと我が家が困る。
4泊5日の入院生活...
短いようでとても長かった....
名残惜しくはないが、とりあえずベッドや棚を丁寧に片付けよう。
10:20「移動販売でーす」カートを引く音。
ふっ。もうあんな品数が少なくて梅干しの高い店にしがみつく必要はない。外界への橋を渡された私は何処でも買い物ができるのだからね。
と内心強気だったが、請求書の発行は11時になるらしく手持ち無沙汰な事もあり、最後に買うことにした。お茶と水ばかりの日々だったが今日は特別に「濃いめのカルピス」500mlだ。
嗚呼、昨日、2ℓの水なんて予約しなくてよかった。荷物持ちもおらんのに退院する30分前に増えた重い水なんて邪魔そのものだったろう。
さて着替えよう。
ずっとパジャマを着ていたが、ついに「退院用の服」として着替え一式に入れてもらったネコジャラシ柄のワンピースに手を通す。
10:50 看護師から請求書・入院証明書などが渡される。
「これ...お1人で運ぶんですか?」
存在感を放つ段ボールを恐ろしげに指される。
長期入院になる事を見込んで、着替えや生活用品などを引越し用の130サイズ段ボールにぎゅうぎゅうに詰めて送ってもらっていた。
「はい、まぁ。何とかなります。タクシー乗り場までは。」退院する事で頭が一杯の私は「イベント用の160段ボールよりは軽い」という基準でしか見ていなかった。
「ちょっと、看護師としてこれを妊婦には持たせられません。」いうが早いかシュッとした面持ちのキビキビした看護師は、鞄持ちならぬ段ボール持ちの人員と台車を素早く手配してくれた。
さようなら、妊婦入院病棟。
お世話になりありがとうございました、ナースセンターに頭を下げると、看護師の何人かが満面の笑みで立ち上がり別れの挨拶をしてくれた。
残念ながらそこにウルスラはいなかったが。
荷物を運んでくれたスタッフの女性が会計窓口まで案内してくれた。
請求書を開けると、今までに支払ったことの無い医療費の金額。それでも3割負担なので、本来はもっと高額なわけだが。
低所得者の救済、高額医療制度の事前申込(国保限度額の認定申請)をしたいとは思っていたのだが、結局は隔離された入院患者が役所に行けるはずもなく、今日ツレ君が午後から行くと言ってはいたが、私がその前に退院になったのだ。
こりゃ3〜4ヶ月後に差額が返ってくるという、一旦全額払って後日申請という手筈しかないと思っていたのだが。
「5月中に『限度額適用書』を持ってきていただければ修正して返金できますよ。」なんと!そんな便利な制度が!!これは病院によるらしい。
何ヶ月も返金を待てない。ホッとして、とりあえず全額をカードで支払った。
ではでは来週また来ます、と言って立ち去ろうとすると、説明の分かりやすい会計の方が急いで後をついてくる。
「大きな荷物ですねー、運びますよ」「あ、大丈夫ですタクシーなんで」「では乗り場まで、運びます。」
うーむ。この病院、妊婦に重い物を運ばせるなという姿勢が徹底されている....
タクシーはすぐに捕まり会計の方へお礼を言って別れた(カートも返却してくれるそうだ)
帰りのタクシーの中で、急激に疲れが押し寄せる。これで終わりではない。不安なことが沢山ある。
「今後、卵巣嚢腫の肥大化、破裂、捩れ、お産時の緊急手術を考えると個人院では対応できない可能性がある。事故に備えて内科や外科の整っている大病院が良いだろう」と、医師、助産師にも言われている。
つまり◯◯レディースクリニック、■産婦人科
といった産科専門ですら万全と言えずー
まして家族と猫に囲まれた自宅出産なんて言ったら医者は震え上がるだろう。
猫の手を借りても嚢腫は除けない。
コロナ渦の医療現場では、出産にパートナーすら立ち会えない。
恐らく自分にとって一生に一度の命懸けの事なのに、最も側にいて欲しい、またいるべき人と隔離さらる一択であるのは、とても残酷に思えた。
直前に困らない様、小さな個人院にも予約はしていたのだが。キャンセル可能期間までは諦めきれず、助産院や自宅出産なども総合的に調べ検討していてー そんな矢先の事件だった。
今回、死を予期する程の痛みに襲われた。そして今後それが再来し、最悪の場合は安全な出産をも妨げる可能性があると言うのだから、もう自分は「ハイリスク寄りの妊婦」と腹を据えた方が良いのだろう。
「寄り」と言ったのは、真のハイリスク出産者から「お前のリスクなんか全然だぜ」といった非難を避けたいからなのだが、今改めてハイリスク出産について調べたら卵巣嚢腫は入るみたいである....
11:20 気がつけばマンションに着いていた。
タクシー運転手に段ボールをエントランス入口の階段までおろしてもらう。
三階まで階段で運びたくないのでツレ君にLINEするも、申告通り会議中の様だ。何時に終わるかは不明。
面倒だが段ボールの中身を2つに分け、手荷物とは分けて3回運ぶ。本当はこんなもん全然いっぺんに運べる量だけどなー。
「妊婦に持たせられない」という看護師さんの言葉が刺さっている。
では荷物の重量を下げるために階段3往復はしていいのか?
ローリスク妊婦の時ならまだしも、今の自分の加減はさっぱり分からない。
猫2匹と人間一人に出迎えられ、5日ぶりに玄関をくぐる。
はー。おうち。巣。
入院荷物をとっとと片付けたいが、意を決してやめる。歯を食いしばって、やらない。
私は私の為に寝る。怠ける覚悟を持て。
救急搬送される前日、実は珍しくデスクワークを1日した。食事や休憩は勿論挟んで、10時間ぐらい。妊娠以来、初めてマトモにまとまった時間を仕事に費やした。
通勤している妊婦さんに比べれば決してハードワークではないし、卵巣と直接の関係は無いだろう。
ただ、何かのキッカケで万が一、普通に働いた事が激痛事件を起こす最後の一押しになっていたらと想像してしまうとー
どうにもこうにも、臆病になる。
小さい方の猫は、べったりとくっついて離れない。飼い主の帰還が嬉しくて仕方がない、素直な犬の様だ。本当に分かりやすい。
大きな方の猫は、拍子抜けするほど落ち着いている。元々無口ではあるし、返事もしないことの方が多いけれども。おまえ、何か、もうちょっとあるだろうよ。
「ただいま。◯◯」大きな猫に名指しで声をかけると、くるりと振り返り「あぁーーーん」と泣きそうな甲高い声を上げた。
いつものアルトボイスからは想像もできない様な、か細い声。
「お帰り」か「待っていたよ」か、特定の意味合いは持たない叫びなのか。いずれにしても、彼は彼なりに心を削っていて今を歓迎しているのだろう。
人語を発しない者たちと多くを語る事はない。
でも奴らはきっとこちらが図れないほど沢山の想いを持っている。
お腹を撫でると、ドカッと蹴り上げる反応が返ってくる。うん、元気だね。
満足度120点の出産プランは望めないだろうけどもー
きみも私も、無事に生きれる道を探そう。
最後になりましたが
K病院の医師の皆様、看護師さん、助産師さん、
現場スタッフの皆様
NレディースクリニックのS先生、
迅速に駆けつけ安全に運んで下さった救急退院の3名様
医療崩壊目前のこの国の過酷な医療現場で、突発的な患者にも嫌な顔一つせず全力を尽くしてくださった事へ心より感謝申し上げます。
妊娠6ヶ月で原因不明の腹部痛に見舞われ入院となった妊婦の備忘録④
5/13 入院3泊4日め
6:30 目が覚める。夜中、一度も起きなかった。
腹部の痛みはかなり引いている。鈍い違和感はあるがー 生理5日目の朝という感じ。
7:00 抗生剤と鉄剤の点滴。お腹すいた。
小学校の養護教諭のよーな落ち着いた看護師が雑談する。「先生もね、帰りたい帰りたいって泣いてるのに帰してあげられなくて、かわいそうだって悩んでいたのよ。」
私は山に帰れないハイジか....
しかし気持ちは伝わっている様だ。正確には帰りたいと泣いたわけではないが、初日は搬送時から検査・入院までずっと涙目にだったのは覚えている。腹部の激痛とお腹の子供の心配と、根本的な治療の無いもどかしさに足元から崩れていく様な不安があった。
少なくとも今、激痛はない。それは確かだ。
8:00 朝食 また何で白ごはんを進めればいいのか分からないオカズ。ぷよぷよしている。作家友達に写真を送ったら「これは一体、何を食わされてるんですか?」と聞かれる。私にも分からない。
9:00 Y本先生が現れる。
現状について改めて質問→ 卵巣嚢腫捻転の疑いではあるが、確定診断出来ていない。例えば妊娠によって腹部の靭帯が一時的に裂傷したり血液に滞りが生じた、などであれば、現在は痛みは引いているので腹を開く必要はない。出産までは出来れば手術なしで逃げ切りたい。卵巣の大きさが変わっているかもしれないので、明日、超音波検査と血液検査で結果を見ようとの事
「今日!今日検査しないんですか?」「そんなに、毎日は検査しないんですよ」
そう、なのか.... 帰りたい一心で前倒しを切望してしまう。
もしまた今後も激痛で救急搬送されたらどうすればー? その時は腹部切開、手術という事だ。
痛みが薄らいだので鎮痛剤カロナールは頓服として使用になった。
カートを押しながら「ゴロゴロ〜」と去っていくのが印象的なY医師。とても質問しやすいので助かる。
10:30 移動販売
「梅干しはありますか?」ダメ元で聞くと「ありますよ」えー!あるの!!
「皆さん、病院食のオカズが...ゴニョゴニョ...で、よく売れるんです。」
3食白ごはんでススまないオカズの日々は、私だけでなく皆が苦しんでいるのだ。
梅干しと胡麻昆布、カロリーメイトとチョコレートとお茶と水を買い込む。割高ではあるが外界と断絶された孤島なので仕方がない....
今お金使わなかったらいつ使うの?というぐらい私の精神はすり減っている
しかし小さなペットボトルばかり買ってたら1日で結構な散財だ。妊婦は異常に水を飲む。しかも今は全然稼げてない日々なのだ。
「2リットルのお茶か水はありますか?」
「はい。申し込めば持って来れますが」「是非!!」「でも最短で明日ですね」
えー。マジかよ。売店本拠まで何kmあるのよ。
移動販売が1往復なのは、多分コロナ的な規定なのだろう。売店もコンビニも立入禁止、面会禁止、唯一無二の自販機は冴えない飲料と缶コーヒーばかりで階下の自販機利用すら禁止、もはや隔離病棟状態だ。
使用できる自販機には冷たい飲料のみ。せめて熱い珈琲や紅茶くらいは飲ませてくれ......
「出産者専用」って部屋には熱い紅茶やら飲める電気ポットとティーセットあるが、この気の毒な妊婦にも有料でいいから解放して欲しい。
妊婦には温かい飲み物が推奨されるのに...
こうなるとわかってたら家から電気ポット持ち込んだのに。ああ。もう。帰りたい帰りたい帰りたいよー。ぴー!キー!
となるのは単に辛抱弱いだけでなく、つい先日まで重く長いつわりに苦しめられていて、間髪入れずに次の刺客「救急搬送〜卵巣嚢腫入院事件コロナ渦編」だったので、およそ5ヶ月に渡りストレスが蓄積され続けているのだ。
11:00 検温、血圧検査、心拍検査
赤子は今日も元気な鼓動を刻んでいる
「随分と変わりましたねぇ」と看護師に驚かれる。何しろ初登場がボロボロ満身創痍の寝たきり状態だったので、平然と歩いて普通に受け答えするだけで驚愕されてしまう。
12:00 昼ごはん。シャケが出たのは嬉しかった。醤油と大根おろしが欲しい
14:30 暇でウロウロしてたら久しぶりにウルスラに似た看護師に会う。
「元気になってきてよかったねぇ!」
4回目の妊婦検診をここで出来ないか相談。
16:00 シャワー
16:40 シャワーを浴び、自室でボケッとしてたら男性医師が現れる。痛みはどうかと聞かれ、生理痛で言うとほぼ5日目後半で、ほぼ痛くないと伝える。
いかにも権威のありそうな風貌なのだが、あなたは誰?と聞けなかった... どこかでみたような.... 後で他の人に聞こう
17:00 助産師さんが現れる。
「さっき来られた先生は?」
「えっ、元々あなたのかかりつけの◯レディースクリニック院長のS先生よ」
「えっ?!!」
嘘、そんな。いつもお世話になってる先生を、私は分からなかったのか...
やっべ... なんでS先生が、K病院にいるんだ?!
「まさか...私を心配して来られたとか...?」
「そうそう。来た時にあなたはシャワー浴びてたから、待ってたのよ。」
ひえ〜。明らかに、誰だっけこのひと、みたいな顔しちゃったよ...トホホ....
マスクのせいで、たまに会う人の顔を覚えるの輪をかけて苦手なんだよなぁ....
しかし私の様子なんて産婦人科に電話一本かければ済むだろうに、そんな義務感と温情のある医者が世の中にいるのか。
慌ててお礼とお詫びのメールをクリニック宛に送った。
18:00 夕食。お肉が少ない
移動販売で買った梅干しと昆布を乗せて、しかも食後にカロリーメイトを食べてしまった
19:30 抗生剤の点滴
隣接する出産室で、陣痛に苦しむ声の後、赤ちゃんの産声が聞こえた。
この日、出産があったようだ。めでたい。
ただ複数の赤子の泣き声が何時間も響き渡り、朝方まで眠れなかった....産婦人科に入院している人の宿命なのだろうか。
赤子の壮絶で気が狂いそうな泣き声も、4ヶ月後には他人事でなくなるのだー 想像すると怖い。
それでも多分、初めて聞いた時は感動するんだろうな。生命の塊みたいな叫び声。
妊娠6ヶ月で原因不明の腹部痛に見舞われ入院となった妊婦の備忘録 ③
5/12
0:00 トイレで少量の茶色い出血を確認。
一瞬ギョッとするも、鮮血ではない為、経膣エコーの影響だろうと判断
夜中から明け方にかけてお腹の張りと痛みで数回起きるも、やがて落ち着く
腹痛により寝返りは痛いが、「ギャー!」から「うぐぅ...」ぐらいに痛みの程度が下がっている事を実感する
7:00 起床。採血、血圧測定、点滴を刺される。今日から栄養・鎮痛剤の点滴が無くなり抗生剤のみとなる
薄々気づいてはいたが、多くの看護師に驚愕されるレベルで私の血圧は低いらしい。他のクリニックでは3度も測り直しされた。プロが目を見張るほど血圧の低い自分が心配だ
7:30 お腹がすく
昨日まで食事の悪口ばかりの口が言うのもなんだが、どんなでも早くご飯を食べたい
看護師が現れ、ご飯かな?!と思ったら点滴を見に来た様子だ。点滴終わらないとご飯貰えないのかな....
8:00 朝食 点滴終了
ケチャップオムレツ、白ごはん、味噌汁、牛乳、
人参のシーチキン和え。
ケチャップをメインに白ごはんを食べない私には辛い... 納豆か海苔か梅干しが欲しい....
欲を言えば何か焼き魚が欲しい....
どうしてもケチャップオムレツにするならパンがいい.... 等と献立に納得できないでいるが、お腹の子に栄養を摂らなくてはと箸をすすめる。
しかしご飯がススマナイくん、白ごはんを残してしまう。齢33にして、病院食の辛さを知るー
普通の朝ごはん食べたいな...
食後の牛乳(ぬるい)を飲みながら、また退院願望が強くなる。
9:00 初めて男性医が現れる。
産婦人科のY本医師、熱心快活。
(これまで会った各科の医者、担当医、看護師皆が女性だったので初めて男性に会った印象)
お腹の痛みを確認される。自分の状況を再確認→組織に何か起きたのは間違いないが断定ができない。自然修復できるに越したことは無い。極力切らない方向で!
痛みがゼロにならないと退院できないか質問
→ゼロでなくてもいいが血液検査の数値なども見て検討しようとの事。お腹の赤ちゃんは元気そうだからね!と言われてホッとする。
9:20 産婦人科医の女性が現れる
初日から診てくれた、円メガネで丸い体格が親しみやすく覚えやすい人だ
「こんな知らない人ばかりのところで治療もハッキリしなくて入院なんて辛いよねぇ。そりゃ早く帰りたいよね。ごめんなさいね。」とと内診前に謝られたのが印象的だった。
なんとなく自分が医療に不慣れな帰巣本能の高い野生動物になったような気持ちになる
ご飯を食べて良いと判断をしたのもこの医師だった
9:30 担当医が現れる
入院したがらない退院したがるの私をゆっくりと諭す学級委員の様な女性。
血液検査の炎症値、CRPが7から6に下がったとの事。「良くなったんですね、帰れますか?!」聞くと「普通は0なんですよ、この数値。」
ガーン....
朝、初めて男性医師が来たことを告げると「Y本先生はずっと心配してたんですよ」との事。知らなかった。
「医者は皆、初日から○○さんの事を知ってるのでご安心ください。」
皆が私を知ってるのか...。救急搬送で妊婦で動けなくて原因不明で次々とあらゆる検査をしたのだから、割と印象的な登場で、かつ様々な医師が次々と関わらざるを得ない状況だったのだろう。
10:30 移動販売が現れる
昨日とは別の女性だ。コロナ以降、特に妊婦は売店をはじめ外部には出てならないとの方針らしい。歩けるようになってもコンビニすら行けないのか...ガックリする私を横に「必需品は、アメニティーセット(有料)で揃いますからね〜!」と言ってはくれたが、蓋を開けばマスクも下着も靴下も化粧水なども無く1日1300円なので、割りに合うとは思えず今日迄で解約したのだった。
フォークやスプーンなんて何に使うんだろ...
移動販売では爽健美茶といちごチョコとダースを買えて嬉しかった。
10:45 貧血という事で鉄剤が点滴される。
貧血と言われたのも人生初。
点滴を終え、昼前にまた体温と血圧測定。
しかし、午前中だけで医者は3人も来たし、看護師は2名が3回来ている。普通、こんなにも次々と来るものなのだろうか。なんだか私は多い気がする....それともこの病院の方針なのか。
無論、ほったらかしにされるよりずっと有難い。
12:00 昼食。鯖の切り身が出たので少しホッとする。カットしたリンゴが一番美味しかった。
しかし吐き悪阻の人と同室はどうにも辛い。食べながら寝ながらゲロゲロを聞かなきゃならない。イヤホンの音楽をも乗り越えてくる。向こうだって普通に食事してる人と同室は嫌なんじゃないか。気が弱いので病室変えてと言えないが、私以外は皆、吐き悪阻の様である...
前向きに言えば、窓際の角っこなのは気に入っている。換気が良くて風がよく通る。出窓特有の置きスペースもちゃっかり使えるし。
12:30 荷物が届く。iPadにオフラインで聴ける音楽が入っている。イヤホンも貸してもらえて良かった。
15:30 相部屋の人が目前で吐く音が辛く、何度も休憩室にいく。
部屋移動の相談をしたいが... 医師が突然体調不良で早退したとかでナースセンターは大変そうだ...
15:40 相部屋の方が吐き続ける音が限界になりダメ元でナースセンターへ。音が辛く殆ど部屋にいられない。ご本人が一番辛いのは理解している。私はつわりの症状がやっと落ち着いてきた所だが、吐く音を一日中浴びているとつわりがぶり返しそうで距離を取りたい。という内容を、丁寧な言葉かつ死にそうな顔で伝えた。(入院した時から悲壮感がすごいと何人かの看護師に言われており演技ではない)
その後、他の部屋に移動することになる
とてもありがたい。嬉しい。
新しい部屋も窓際の角っこだった。
16:30 シャワーの時間。水圧と温度が高いので下手な銭湯のしょぼいシャワーより気持ち良い。
ただ、毎日お湯を溜めていたので湯船が恋しい。
17:10 薬剤師が点鼻薬を持ってくる
入院以降、鼻呼吸が出来なくなったので助かる
18:00 夕食 モヤシが美味しかった
食後に痛み止めカロナール500一錠
19:30 抗生剤の点滴
担当看護師に「また卵巣嚢腫が捩れたらどうするんでしょうね?」と言われ不安が倍増する。
医師は嚢腫自体悪いものではないと初日に説明していたがー 調べると6センチ以上の嚢腫は捩れる危険性が高くなる為、手術での切除が基本らしい。(捩れると救急搬送される激痛、卵巣の壊死→切除、お腹の子供にも悪影響となる)
その為、妊婦の場合は16週までに手術で切除するケースが多い。私は既に21週... 手術推奨期限から1ヶ月以上も超えると子宮もお腹も大きい。
そもそも妊娠初期に発見されて経過観察が多い様だ。私は検診もきっちり通っていたが、21週になるまで医師は気づかなかったのだろうか。あるいは最後の検診から急速に肥大化したのか?
この辺を明日、医師に確認したいと思う。
(ただ救急搬送先の医師に過去の責任はない)
卵巣嚢腫にも幾つかの種類があり、皮様嚢腫は再発しやすいらしい。別名「奇形嚢腫」。聞き覚えがある
キケーノーシュワノヨ!名作ブラックジャックの、ピノコである。皮様嚢腫という呼び名は産婦人科で使用されることが多く、「皮膚のような嚢胞」というのが名前の由来。中身は人の一部が入っている。脂肪、毛髪、皮膚、骨、歯、目など。
受精もしていないのに、卵子の元が勝手に分裂を始めてしまい、結果、人体のいろいろな部分が中途半端にできてしまうそうだ。
なんて健気でトンチンカンな子なのかー。
そこに意思はなくても紛れもない自分の細胞であると思うと、可哀想に思えた。
積極性は認められるが完全にタイミングを間違えている。
もし手術で切除した時、私はそれに対面したいと思った。
ニコタマという漫画で主人公の卵巣がやはり嚢腫で切除されるのだが、出てきた「袋の中身」を愛しく感じ部屋の中に飾る主人公に対し、夫は気味悪がり、結局は土に埋めるという印象的なシーンがあった。今の私は断然、主人公寄りの心境になっている。
せっせと勝手に分裂をして嚢腫の中身になってしまったのは、ウイルスでもバイ菌でもなく「子供になれなかった自分の卵の成れの果て」なのだ。
手放しに責められないし憎むことまできない。
21:00 嚢腫を調べ続け、疲れて目を閉じる
入院3日めは、隣人の吐き音に怯えずに眠れる初めての夜。
妊娠6ヶ月で原因不明の腹部痛に見舞われ入院となった妊婦の備忘録 ②
5/11
0:00〜4:00 腹痛で度々目が覚める
寝返りを打つのが非常に苦痛
夜中から朝方まで、何度も看護師が様子を見に来るので驚く(会話はしない)
6:00 様子を見にきた看護師と目が合う
お腹の張りを確認され、再度張り止めを処方される。お腹が空いたと打ち明けると、緊急手術になる可能性がある為、食事が出来ないとの事。がっくり。
8:00 血液検査。抗生剤で炎症の数値が下がっているかなど確認する模様
9:00 担当医師が来る。昨日に比べると顔色が良く会話がしっかりできている、お腹を開くのはリスクがあり手術は最後の手段にしたいと方針を繰り返し示される。
医者を捕まえて話すほどの事でもない気がしたが、有料のアメニティーを申し込んだものの下着が無くて困っている旨を伝える。オプションで買えるか聞いてみるとの返答。(しかし結局は終日、何も教えてくれなかった)
10:00 婦人科で経膣エコー。子宮ポリープを確認するも悪影響は無さそうとの見解。炎症反応などの結果が出るまで数日かかるとのこと。
子供は元気な様子でほっとする。熱々のタオルでお腹を拭いてもらえたのが何より嬉しかった。
ここでも赤子の為に開腹手術を極力避けるための説明を受ける。私も出来れば手術したくない。
この際に空腹感を聞かれ、お腹が空いて辛いと話す。今日は少なくとも手術にならないだろうとの事、お粥なら出せるかもとの話が浮上して期待が高まる。もう24時間以上、食事をしていないが
実はカバンの底から出てきた飴を舐めていた。医師にはバレていたのかもしれない。
10:30 移動販売でーす という声に飛び起きそうになり、慌ててお腹の痛みを庇う。
パンツは、パンツはあるのだろうか。
60過ぎのおばちゃんがお菓子や飲み物をたくさん積んだカートを引いている。
「この病院は売店があるんですか?」「あるにはあるんだけど...あまり店舗に患者は入っちゃならないことになってるのよ。」何とコロナ渦ではそんな制限もあるのか。
「昨日救急搬送されて、下着がなくて。妊婦なので大きいのがいいんです。」「まぁ」
おばちゃんはお菓子をかき分けて探してくれた。
本当はツレ君に持ってきて欲しいが、往復1時間以上かけて再会できるならまだしも、面会禁止でパンツだけ引き渡されるのも馬鹿馬鹿しい。Lサイズのパンツ2枚組(¥680)と抹茶チョコ(¥150)を購入。想定より良心価格。動けない人間に移動販売は涙が出るほど有難い。一万円札のみ握りしめて来たので細かいのがないと謝ると「そんな大変な時に一枚でも持ってきたの偉いわよ〜!」と褒めてくれた。
12:00 昼食。28時間ぶりの食事。お粥と聞いていたが、ふよふよの素うどん、卵で煮た高野豆腐の様なもの、柔らかい桃缶の刻んだものが登場する。
「軟食」と分類される消化の良いものらしい。
つわりの名残で食への許容範囲が極度に狭くなっている事もあり、素直に喜べない自分が憎い。
そうだ。この微妙な食事を乗り越えて元気になって美味しい食事を目指そうと気持ちを切り替える。中々口に合わず残そうかと挫折しかけるが、「元気アピール」をしないとずっと軟食のままで退院もできないぞと9割は食べ切る。
これ以降、腹部の痛み止めが点滴から食後の錠剤に変わる。
14:00 マスク、下着、着替え、妊婦用サプリ、色々と足りないので宅急便の午前指定で送ってもらう様にツレ君へ依頼。ついでに割高な有料アメニティー契約をやめてしまおう。
この頃から、段々ヨロヨロと歩ける様になってくる。「一人で動けるんですね!」と看護師に喜ばれる。
15:00 タオルで拭くかシャワー申込の2択を迫られる。
どうしてもお湯を浴びたくてシャワーを選ぶ。
昨日の惨状を知る何人かの看護師に「シャワーはやめた方が良いのでは」と心配されるが、倒れる直前には浴びるのを止めるからと説得する。
実際に体力消耗はすごかったが、浴室に大きな椅子があったのは助かったし、熱いお湯の癒しは偉大だった。
あがって暫くは何もできなくなったが、嫌な汗や嫌なウイルスが流れた気がして燃え尽きた様な満足感があった。
移動販売のパンツを買ってよかった。しかし、妊婦の腹にはちょっと苦しい。
18:00 夕食 元気アピールが功を奏したか、希望していた「普通食」が出される。
決して美味しくないが、身体を気遣いゆっくりよく噛んで食べた。どの惣菜よりも切っただけのキウイが一番美味しかった。
18:30 抗生剤の交換に来た看護師に、朝の血液検査の結果を聞く。炎症反応の数値は決して良くはなってないそうで、過度な期待をした本人としてはガッカリする。今は継続して投与する事が重要だそうだ。
突如、思い出す。今日は、かかりつけのレディースクリニックで朝から「妊婦検診」の日だったのだ。
慌てて看護師に伝えると「西荻の先生には入院した内容も全て連絡してるので大丈夫ですよ」との事で、病院同士の連携が取れておりホッとする。
19:30
家にいる2匹の猫は、今、部屋中をウロウロと徘徊して私を探し回っているらしい。
ご飯さえ与えれば問題ない連中だと思っていたが、それなりに人間への情もあるのだろう。
猫の彼らからしてみれば、突然、見知らぬ騒々しい人間(救急隊員)が複数人で部屋に現れて飼い主は連れ去られ、その後は帰ってこないのだから、理解不能な不安で一杯なのかもしれない。
20:00
少しでも腹筋を使うと、嫌な痛みが走る。
ただ、叫びのたうつほどの痛みは今はない。
お腹を全く使わない動き方に慣れつつある気もする。熱は下がっていない。
やがて消灯時間、今日は寝返りの痛みも軽減されるだろうか。
明日はもっと元気になれます様にと願う。
妊娠6ヶ月で原因不明の腹部痛に見舞われ入院となった妊婦の備忘録
5/10
6:00 腹痛を感じる
8:00 自分で朝ごはんを作って食べる
9:00 症状が増悪。一歩も動けなくなる
ベッドから起き上がれないほどの激痛があると
かかりつけの婦人科医に相談すると
すぐに救急車を呼べ、うちより詳しく診れる病院へ行けと提携先の病院を紹介される
10:00 救急隊員が到着
3人がかりで運ばれる、ツレ氏も付き添う
救急車の中では痛みでろくに応答できない状態
朝ごはんの内容を質問される。しっかりめに食べたので食い過ぎと誤解されないか心配をする
( ライ麦パン、卵焼き、セロリ炒め、バナナ、ヨーグルト )
10:20 K病院着 すぐ体温測定→ 37.3度
超音波検査により胎児の生存を確認。
虫垂炎を疑われ緊急手術の可能性を示されつつ
CT、MRI、血液検査、尿検査
妊婦は積極的に受けたくない検査もあるが背に腹は変えられない状態
この間、痛みで歩けないので車輪付ベッドを駆使して各検査室に運ばれる
MRIは密室の20分拘束状態、工事現場の様な不気味な大音量に反応してお腹の子が暴れだす。
機器の中とお腹の中、双方でドコドコが始まり気が狂いそうになる。
無意識に右手が緊急ブザーを鳴らし、技師が慌てて飛んでくる。
結局、虫垂炎は見つからなかったが
明らかに何かあるが確定できないと医者が数人寄ってざわついていている。言葉を拾うと
「熱が高い」「緊急手術の場合」「再度、婦人科へ」「子宮でよく見えない」「CTの検査を元に更に検査を詳しく」「何かモヤがある」
15:00 重ねての超音波検査の結果、卵巣が6センチと大きく(一般的には3センチ程度)腫瘍と捩れの疑いを説明される
卵巣が捻れて血栓があれば開腹手術になる
もし最悪血栓なら卵巣の壊死、一刻を争う。
どうすりゃいいのかすぐさまジャッジして欲しいが、既に子宮がかなり大きい妊婦は卵巣も診づらく確定診断が難しい。さらに手術もリスクが伴うため、慎重に経過観察入院....
こんな面倒な災難は、せめて妊婦じゃない時に来てくれと泣きそうになる。
血液検査などから、今すぐ手術という状況ではないとの事。
特段の治療法もない様なのでいっそ家に帰りたくなる。なんとか入院しなくて済まないか聞くが、色々と状況がやばそうなので断念する。
コロナにより面会禁止で家からも遠くアクセスの悪い病院、仕方なくパジャマやら有償アメニティーを申し込む
17:00 入院前のPCR検査
陽性の場合はどうなるのかと怯える
「入院以降は面会禁止なので、ご主人と会える最後の時間はPCR検査結果が出るまでの1時間です」
と医師に伝えられる。
コロナ渦の孤独な現実がお腹の痛みに増幅してのし掛かる。
ちなみにツレ君は転職し今日が初出勤日だったのだが、この事件により初日から欠勤という不運な結果になったのであった。
18:00 PCR陰性により入院決定
もし陽性なら病院から追い出される事実を聞きゾッとしつつ大部屋に着く
人生初の入院。この騒動により朝食しか食べていないが、もう夕方だ。病院食が出されるのかと期待するも栄養は点滴のみとの事、淡い期待すら打ち砕かれる辛い現実を直視する。
19:00 入院計画書をもらう
病名には「卵巣嚢腫茎捻転疑い」と記載
入院予定は1週間。マジかよ早く帰りたい
担当看護師が現れる。話す雰囲気は魔女の宅急便のウルスラだ。敬語もあったりなかったりでサバけてはいるが、本気で相手を心配し接する姿勢は伺える。
19:30 お腹の張りが顕著になる
ウルスラ似の看護師に言うと慌てて触診され張りを抑制する薬を飲まされる。張りは子宮の伸縮であり胎児が今産まれたら大変なので、侮ってはならないとの事。
看護師の予言通り、副作用の動悸が激しくなる。
元々、妊娠中期から息切れや圧迫感が辛かったが妊婦の特性と思っていたと話すと、通常は今のお腹の大きさでそこまでにならないはずと看護師は述べる。これらの予兆だったのかもしれない。
20:00 相部屋の女性がゲボゲボと吐き続け、部屋中に響き続ける。吐くご本人が一番気の毒だが、精神的に聞いてる方も辛くなる。帰りたい。産婦人科なので吐きづわりの酷い妊娠悪阻なのかもしれないな...と想像する。
20:30 看護師がお腹の張りや胎児の心音を気にし、計測の機械を持って現れる。わりと頻繁に顔を出してくれるが、看護師なんてナースコールで現れるものだと思っていた。
不穏な病気疑い × 妊婦 なのだから
ヤバさ倍増で目が離せないのかもしれない。
張りの状態次第で点滴の内容も変えると預言しウルスラはまた消えた。
20:50 ぼんやり今日1日を振り返り、iPhoneのメモに記録する。
チョコレートぐらい持ってくればよかった。
点滴で栄養は問題ないとはいえ何かしらの甘さや娯楽がなければ退屈を超えて軽く絶望しそうだ。
どこかの検査の段階で、妊娠しているから辛いと看護師に溢すと「例え妊娠してなくてもこの状態は相当、辛いですよね」と返された事をぼんやり思い出す。
痛いわ動けないわ治療の目処たたんわ家族にすら会えないわ。確かに私個人、単体としても辛い。
ただ、どうしても今の私が一番心配なのはお腹の子供だ。卵巣が膨れて捻れてどーのこーので、この子に何かあったら。想像しては涙が溢れる。
お腹が痛い。ずっと痛い。寝返りすらマトモにうてない。朝から救急車搬送で、そういえば歯磨きもできてない。
元気になれば家に帰っていいと言われたが、こんな状態で元気だと説得するのは難しいだろう。
つい2日前に猫の去勢手術をしに動物病院を2往復した。手術後は、化膿しないか排泄できるか、猫の心配ばかりしていた。
自分がこんな事になるなんて。
帰宅したツレ君から、エリザベスカラーをつけた猫の写真が送られてきた。
元気そうに見えてほっとしたが、猫も今は毎日抗生剤を飲ませないといけない。
猫の世話をくれぐれもよろしくとツレ君に伝える。
21:30 完全消灯の時間。
看護師に依頼しベッドのまま歯磨きをさせてもらう。お腹が張れば深夜でも知らせてと念を押される。
そういえばコロナ以降、外泊は初めての事。故郷に帰りたい、温泉に行きたい。そんな世の中ではないと諦めていたのに、こんな形でお泊まりになるなんて。
私の明日はどうなるのだろう。
孤独感と絶え間ない痛みに呆然とするが、唐突にお腹の子は動く。ここに家族がいるよ、と聞こえた気がした。